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zoom RSS EMOTIONAL SKETCH 12  嬉しい宅配便

<<   作成日時 : 2007/11/11 10:30   >>

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CDが届いたのは、半年ほど前のことだった。差出人は廣木光一。ジャズ・ギタリストである。ぼくは宅配されたCDをこのブログで紹介しようと思って日課のように聴きつづけてきたのだが、紹介の方向を見出すことができずに<編集中>の項に入れたままになってしまった。で、半年が経過してしまったのである。このCDに収められた廣木のソロ・ギターによる演奏は、まったく飽きがこない演奏だ。飽きがこない、ということは演奏が単に美しいとか、聴いていて楽しいというだけでなく、音楽自体が複雑さを持っているという証明でもある。

『BOSSA IMPROVISADA』、直訳すれば「即興されたボッサ」ということになる。ジャズ・ギタリストの廣木光一が、彼の音楽的なエッセンスを凝縮させて演奏したブラジル音楽・ボサノヴァ集である。ソロ・ギターでボサノヴァを即興演奏した日本人のCDは他にあるだろうか、と思って探してみたのだが見つからない。(まあ、ブラジルにはあるだろう。旧友のひとりであるブラジル音楽の権威・中原仁に聞けば答えてくれるに違いない)
廣木はこのCDでアントニオ・カルロス・ジョビンの6曲をはじめとして、シコ・ブアルキ、ジルベルト・ジル、カエターノ・ヴェローゾらの作品を演奏しているが、まるで彼のオリジナル曲を弾いているかのような「自然な歌」が聴けるのである。この「自然」さは彼のブラジル音楽に対する理解の深さ、および「自分の音」を出すことへの強い意思と厳密な客観化から生み出されるものだと、ぼくは思っている。廣木がこのような強靭な音楽の姿を作り上げるまでには、実は長期間にわたる自己葛藤と努力の日々があったのを知る人は少ない。

ぼくが廣木光一と出会ったのは70年代の後半、彼が古澤良治郎バンドにレギュラー・メンバーとして加わった時だった。日本では数少ないしっかりとしたボサノヴァ・グループ「スピック&スパン」で演奏していた彼は、やがて「ネイティブサン」に引き抜かれる大出元信の推薦によって古澤のグループに参加することになる。虚弱児のように青白く、無口な若いギタリストは、その外見とは反対に頑固で理屈っぽい男であった。さすが、故・高柳昌行に師事し続けているだけあって、はっきりとは言わないがリーダーである古澤のルーズになりがちな(これは古澤の味、なのだが)演奏に我慢がならないようであった。いきおい、演奏終了後の顔は不機嫌な気分がありあり。だが、義理堅い廣木は良治郎バンドの解散までレギュラー・メンバーとして活動を続けたのだった。そしてその後は市川の「リブル」を本拠としてライブ活動を行い、同時に若手育成のジャズ・スクールを立ち上げる。同世代のメンバーを集めた廣木バンド、ギター・トリオでのこの時期の演奏は彼の音楽方法を完璧に実現するためのシステムであったと言えるだろう。

ぼくはジャズという音楽の素晴らしさはビートからアンサンブルに至るまで、強靭な構成力とそれを内部から崩壊させるルーズさの共存にあると考える人間である。そんなぼくにとって、廣木の音楽の組み立てはハンドル の「遊び」のない車のように思えたのだった。自分の考えを忠実に音にしてくれる若手を育て、1から10まで思うままの演奏をすることは決して簡単に実現できることではないし、素晴らしい音楽姿勢であるだろう。だが、自分の思想に斜めから突っ込んでくるような思い通りにならない共演者との対話を楽しめてこそのジャズではなろうか。この世界にある事象のすべては不条理なのだから、「事ならざりし幸せ」を楽しめないジャズ・ミュージシャンは淘汰されるか、自爆テロリストになるしか道はないのである。
というわけで、ぼくとプロデューサーである川村年勝はアメリカのミュージシャンとのレコーディングを持ちかけたのだが、彼は頑なに辞退した。この頑固さは、もう見事なくらいで「あいつは時間をかけて自分のペースで音楽を作るのがいいんだろうね。ま、そのうちに大化けするよ」と苦笑するしかなかったのである。

そんなやっかいな音楽家・廣木光一がはじめてのリーダー作を自主制作したのは1990年のことだった。ライナーノーツを頼まれ、テープを聴いて驚いた。厳密に構成されたバンド・サウンドへの頑ななこだわりの中に、一緒に音を出す共演者の考えを許容する「幅」のようなものが確かな音となって記録されていたからだ。しかも「演奏を楽しむ」という、これまでのかれになかった感覚が僅かに顔をだしている。廣木が変わり始めている!
音楽家が一夜にして変貌することはよくあることなのだが、廣木の変化は石橋を何回も叩くような遅々とした速度であり、誰もがわかるほどの変化が音楽の姿に見られるようになるのは95年に始まったソロ・ワークまで待たねばならなかった。(その変化の意味は2001年に発表された「Everything Shared」のライナー・ノーツ、高野佳男氏による素晴らしい文章を参照されたい。このライナーは日本のレコード&CD史に残る優れた論評である)

『BOSSA IMPROVISADA』は、90年代半ば以降に廣木が到達した音楽の最高地点に輝く演奏である。98年に発表された渋谷毅との『So Quiet』も素晴らしいが、この宅配された最新作は彼の音楽思想が完結されたかたちで息づいている。この演奏をどう聴くか、それによって聴き手の音楽に対する理解の程度が明らかになってしまうような作品なのである。
こういうCDが宅配されるというのは、嬉しいことなのだが、よく考えると恐ろしいことでもあると、つい姿勢を正して聴いてしまうのだ。

<追記>
廣木光一のCDは彼のWEB SITEから購入することができる。高野氏のライナー・ノーツもそこで読むことが出来るので、ぜひ訪問されたい。
http://www.hirokimusic.com


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
どなたもコメントがまだ無いようなので、僭越ながら…なんちゃって。サイトに飛んで音楽を聴かせて頂いてきました。素敵な音楽のご紹介、ありがとうございます。たいていボーっと見ている私は、何でか音を聞けるページになかなか辿りつけず、かなり迷いましたが、ついに到達。いっぱいアップして下さっているので、これからもユックリ聞かせて頂こうと思っています。そして、高野佳男氏による素晴らしい文章も何とか発見しました。一読しただけですが、壮大で、まるでシェイクスピア作品のようです。途中までついていってましたが、一休みしています。m(_ _)mこれからもう一度チャレンジをします。…こんなコメントでゴメンなさい。大先輩の音をしっかり聞いてきます。Thanx 4 a great information, Big Brotha!!
chi-B
2007/11/13 01:15
chi-Bちゃん、一番乗り、どうもです。
ピットインのLEE OSKAR GIGは廣木くんが演奏曲の譜面をおこしてくれたので、スムーズにリハができました。最近、遅ればせながらオトナになったこのギタリストは、強引なLEEのやり方を笑って受け止め、楽しんでたようです。
こういうギタリストが日本のジャズを支えているのだなと思うと心強いのです。
IKEGAMI
2007/11/13 23:33
So Quietは愛聴しているし、廣木+渋谷のデュオもライブで何回か見ているので、廣木さんの端正に構築されたギタリズムは知っています。昔、髭をたくわえて、フュージョンをやっていた頃も見たことがあるけど、神経質なところがあって、他の野蛮な(笑)ギター野郎とは違っていた。廣木さんのこのCDは是非とも入手します。紹介に深謝!
asianimprov
2007/11/15 17:23
asianさん、どうもです。
廣木は昔、山岸潤史と共演すると不機嫌になってました(笑)。
そちらのブログで「あのころ」を紹介していただき、こちらこそ深謝です。
IKEGAMI
2007/11/16 22:41

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