池上比沙之のThings what I feel

アクセスカウンタ

zoom RSS 30年待った音

<<   作成日時 : 2009/10/07 00:44   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 4

渋谷にある白寿ホールで行われた渡辺香津美のソロ・コンサートに行ってきた。このコンサートは新作『アコースティック・フレイクス』のリリース(10月2日)に合わせて企画されたもので、演奏曲目もCDの収録曲をメインにやるから是非聴いてほしいとお誘いがあったので、喜んで出かけて行ったのだ。ホールに入ると、ステージ中央にズラリと並べられたギターが目に入る。行ってみると、数人のギターに関心のある人が、あのCDではこれを使ったとか、オベイションのアダマス・モデルを流行らせたのは渡辺さんなんだとか熱くギター談議をしていた。こういうコンサートの楽しみ方もあるのだと思わせてくれたのだった。
画像

第1部はレノン=マッカートニーの「アクロス・ザ・ユニヴァース」からスタート。香津美のオリジナル、ジャコの「スリービュー・オブ・ア・シークレット」と進むが、演奏者のリラックスぶりに比べ聴衆が固い。曲が終わって、しばらくしてから拍手が出るような静かなコンサートなのだ。だが、6曲目の「オーバー・ザ・レインボウ」あたりからステージと客席の“コール&レスポンス”の速度が上がってきた。ジャズ・スタンダード・ナンバーの「ステラ・バイ・スターライト」のメロディーが鳴り出すと、ぼくの周りの人たちからも「おー」という声が上がる。やはり、ジャズ・ギタリスト渡辺香津美のファンが多いようだ。
だが、香津美のジャズが聴きたいというファンを裏切るかのように、第2部はJ.S.バッハの無伴奏チェロ組曲第1番の「プレリュード」から始まり、モーツァルトのピアノ協奏曲第23番のソロギター・ヴァージョン、ドヴォルザークの「新世界より」と、クラシック曲が続く。聴衆のほうも、この雰囲気を察知したのか、静かで繊細な演奏を楽しもうという感じになってきた。誰もが知っている「家路」のメロディが出てくると、みんな笑顔でうなづくのだ。
ところが、第2の裏切りをちゃんと用意するところがサービス精神豊かな渡辺香津美の真骨頂。4曲目は大ヒット作『TO CHI KA』に収められた曲をメドレーにした「トチカ・アイランド」だ。それまで他所いきの表情で聴いていた人々が湧いた。ようやく身体でリズムを取り始めたのである。
さらに香津美が追い打ちをかける。チック・コリアの「スペイン」、マイルス・デイヴィスの「マイルストーンズ」とジャズ系が続くと、ようやく拍手に歓声が混じるようになった。ユーモラスな演奏者の曲解説ついた「ジャミング・イベリコ」が最後の曲で、アンコールには「ヘイ・ジュード」。
「皆さんも最後のパートを歌ってください。ワタナベカズミの伴奏で歌える機会って、そうはないですよ!」
かくして、楽しいコンサートはエンドとなったのだが、いつもとは違うことを考えながら彼の演奏を聴いている自分に気付いたのは「オーバー・ザ・レインボウ」あたりからだったような気がする。
画像


どう違ったか、それを述べることが今日のテーマなのだが、その前に渡辺香津美の写真とこの日のリハーサル映像をご覧いただきたい。(二つとも彼のHPからの無断借用!) このHPにはリハーサルなどの面白い映像がたくさんあるので、URLを紹介しておこう。http://www.kazumiwatanabe.net/  ぼくは9月に発売された『JAZZ IMPRESSION』のライナーノーツに、彼と出会ったころ(確か香津美が20歳くらい)のことを書いている。ということはもう30年以上の付き合いになるのだが、当時から現在に至るまで、彼の演奏が“セクシー”だと思ったことはほとんどなかった。
誰もが驚くテクニック、正確なピッチ、豊かなフレージング……いつ聴いても文句の付けようがない演奏なのに、何故か想像もしなかったところに連れて行ってくれない。ぼくが香津美に期待するのは、聴いたあとに呆然自失となったり、ジタバタしたくなったり、家に帰って布団をかぶって寝ちまうしかないような、とんでもない演奏なのである。彼ならそれが出来るはずだ、と思っているうちに30年が経ってしまった。

その瞬間が、この日突然に訪れたのだ。「オーバー・ザ・レインボウ」の聴き慣れたメロディーが、透明な美しい音色で鳴りだした時、あれ、今日はいつもの香津美じゃあないんじゃないかという気にさせられたのだった。今にして思うと、この「オーバー・ザ・レインボウ」も、次の「ステラ・・・」も、けっして思い入れたっぷりに弾かれていたわけではなく、むしろいつもよりも淡々と弾かれていたようだ。そして第2部の3曲目のドヴォルザーク。小学生でも知っている「家路」で、ゾクゾクするほどのセクシーなサウンドが彼のギターから飛び出してきたのだ。聴いていて「うーん、こりゃ困ったなあ」というような、席から腰が浮くような感覚に襲われた、とでも言えばよいだろうか。「家路」のメロディと、渡辺香津美という音楽家の存在が美しく溶けあい、聴き手に染みてくる“マジカル・ミュージカル・モーメント”であった。この覚醒のあとに「スペイン」と「マイルストーン」の熱情が来た。2曲ともこの天才ギタリストのもっとも深い所から絞り出された音が踊っていた。ぼくの周囲の聴き手たちが、互いに顔を見合わせてうなづいていたのをみても、この夜の演奏の素晴らしさが実感できたのだった。

ぼくは30年、この瞬間を待っていたのだ。
もし、これから先に2度とこういう感覚がやってこなかったとしても、ぼくは文句など言わずに香津美を聴き続けるだろう。

画像



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
折角のチャンスだったのに伺えなくて何とも残念でした。
もの知らずな私の認識では 渡辺香津美=JAZZ.お笑いください。
バッハ、モーツアルトを聞いてみたかった!
Over the rainbobowも。


IKEGAMIさんが「30年待った音」さぞ素晴らしかった事でしょう。
masae
2009/10/10 19:43
今年もお世話になりました。
なかなかワシの音楽知識ではカラミにくいのですが。
今年も、毎日IKEGAIさんのブログを覗かせていただきました。

ワシの認識は。
渡辺香津美=FUSION
79〜81年の香津美ですよ、なんたって。

超亀レスで失礼しました。

よいお年をお迎え下さい。
半斤八両
2009/12/31 23:56
初めまして。katsuと申します。
中古で購入した横倉裕Love Lightのライナーノーツでお名前を拝見し、このブログにたどり着きました。
渡辺氏といい、横倉氏といい、突出した才能のあるミュージシャンと若い頃からお知り合いとのこと、うらやましい限りです。小生もYutakaとともに長年愛聴している今回の香津美氏の演奏への鋭いレビューも非常に貴重な経験をたくさんなさったであろう方ならではものと感じ感銘を受けました。
これからもマイペースで素敵なレビューやコラム頑張って下さい。どうぞよろしくお願いいたします。
katsu
2010/03/28 08:43
katsuさん、初めまして。
裕、懐かしいなあ。よくLAの彼のアパートに泊まって、音楽の話をしたものです。そのうち思い出話でも書こうかな。
でも、彼といい、べナード・アイグナーといい、ぼくの好きなミュージシャンはちっとも音楽メディアからその消息が伝えられることがありません。
彼らがポピュリズムの支配する音楽流通に傷つけられることなく、元気にいることを願うのみです。
IKEGAMI
2010/03/30 08:33

コメントする help

ニックネーム
本 文
30年待った音 池上比沙之のThings what I feel/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる