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zoom RSS ぼくが死なない理由

<<   作成日時 : 2009/07/18 15:54   >>

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ブログ仲間のTorigenさんが急逝されたと思ったら、今度は平岡正明さんの訃報が届いた。ちょい前にはクラシック評論界の良心、黒田恭一さんが亡くなられている。
60年以上生きてくると、家族・親類、友人・知人のさまざまな死に出くわすことになる。そのたびに“心”という実体のないものに穴があいてしまうような気分にとらわれるのだ。30代、40代のころはその絶対数が少なかったので、ポッカリと大きな穴があいたのだが、さすがに60代ともなると幾つもの小さなものが虫が食ったように並ぶ。だが、穴が小さくなったからといって、喪失感まで小さくなることはない。単に数が増えたということなのである。
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ぼくの職業は、自称ではミュージック・ジャーナリスト、世間的にはジャズ評論家(この呼称は何十年経っても違和感がある)ということになっているのだが、学生時代にはまさかこんなことになるとは思っていなかったので、評論家と呼ばれる人の書くものを思いっきり馬鹿にしていた。「評論家は相倉久人、平岡正明、清水俊彦しかいない。あとはほとんど評判屋。仮想敵は平岡だ」と公言していたものだ。後に山下洋輔トリオの周辺で平岡正明さんと顔を合せた時、「池上くん、オレ、仮想敵だったんだってね」と強面文筆家とは思えぬ優しい笑顔で言われたのには参った。誰に聞いたんだろ?
平岡さんとはコンサートや野球の合宿・練習(伝説の草野球チーム“ソークメナーズ”である)で会ったときに話す程度の付き合いであったが、一度だけあちらから電話をいただいたことがある。
「ねえ、穐吉敏子と付き合いがあったよね」
「付き合いというほどの深いものではありませんけど、顔見知りではあります。デプスは平岡さんとの関係と同じくらいで、でも仮想敵ではありません」
平岡さんがジャズ雑誌に連載してい穐吉さんについての記事に対し、彼女が腹をたてていたことは知っていたので、
「何か新しい展開があったんですか?」
と聞いてみた。自分の書いたことで抗議が来ようが、脅されようが、襲われようがへでもない男・平岡がどうしたというのだろう。
「面白そうに聞くねえ。人ごとだもんな(笑)。いや、ご本人から抗議のお手紙をいただいちゃってさ。それが凄いのよ!事実関係の誤りを抗議しているだけで、オレの書いたものの本質には触れてない。その文体が“参りました”ってくらい折り目ただしいんだ。そういう人なの?」
ぼくはある例を出して、穐吉敏子の「日本語」について説明した。
「あの人の日本語は、アメリカに住む日系1世とか2世の日本語が日本人のよりも正しい日本語だったりするのと一緒なんです。ほら、隔離された場所で純粋培養されるってやつですよ。穐吉さんは“わたし”って言わずに“わたくし”って言うんですけど、ちょっと身構えちゃいますねえ」
と説明すると、
「そうか、分かった! そういうことなんだな」
と、勝手に結論を出すのである。平岡さんの文章の面白さは、自分が瞬間的に感じ取った結論にプロセスを強引にあてはめてしまうところにある。これは話していても同じで、どんどん平岡流イマジネーションが進行していってしまうのだ。そんな平岡さんの楽しさを紹介してくれる文章を見つけたので、ぜひお読みいただきたい。現在、人気絶頂のサックス吹き、菊地成孔のWEBに掲載された追悼文である。彼は19日に日比谷の野音で行われる「山下洋輔トリオ復活祭」に伝説のテナー武田和命の代役として出演するのだが、その前に武田さんのお墓にお参りするという意表をついた行動に出て、その始終を最新日記として掲載している。こちらも是非!
http://www.kikuchinaruyoshi.com/dernieres.php?n=090712010525

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というわけで、このところ生きること、あるいは死ぬことについて、ぼんやり考えるようになっていた。まあ、世間的にいえばこちらもお迎えがきたっておかしくはない年齢なのだ。しかも長年にわたって、ドンバとはいい勝負の不摂生を積み重ねているのだから、健康診断で「悪いところはありません」なんていわれると、ホントは本人告知を避けてるだけじゃあないかと疑ってみたりしちゃうのである。ああ、年はとりたくないものだ。
そんな折、タイムリーに知り合いのブログで上の写真の本が紹介されていたので、早速読んでみた。その内容はここでサクっと紹介できるようなシンプルなものではない。なにしろ著者は哲学者・鷲田清一氏なのだ。ブログ主のKさんはこの本の方法論を軸に、人が生きる意味や意義を求める理由に言及していくのだが、まるでジャズの魅力を論理だてるかのような考え方を披露してくれている。

>宗教が生きる意味や意義を説明してくれた時代が去った近代以降、人間は、理論的には、「自由な孤立者」となり、宗教なしに「自由な孤立者」であるため、自己同一性(アイデンティティ)が必要となった。アイデンティティとは、要するに、自分とは何か、という物語を創作することであり、物語に破綻があってはならない。アイデンティティ・クライシスに陥るからだ。しかし、人間は首尾一貫して日常生活をおくる生き物ではない。アイデンティティとは「静的な神話」ではなく「動的な方便」である。

宗教を「クラシック音楽」に、孤立者を「表現者」に、そしてアイデンティティを「ジャズ」に置き換えて読めば、卓抜した現代ジャズ論になること間違いなしであろう。このブログ主の書くPostの8割は極めて興味深いもので、明日生き続けるエネルギーをもたらしてくれるものだと思う。興味のある方はどうぞ!
http://asianimprov.at.webry.info/200906/article_7.html

平岡さんを仮想敵だと言い放っていた時期、ぼくは本気で「学者」になりたいと思っていた。いや、思想家と言ったほうがよいだろうか。だが、いろいろあって(笑)、詳しくは書かないが・・・学問が生きる意味や意義を説明してくれた時代が去ってしまったのだ。もし自分がカール・マルクスを超える思想家になったとしても、次の瞬間に生き続ける理由になるとは思えないであろう自分を見てしまったのだった。とはいえ、タナトスの誘惑に身を任せるには年をくいすぎていた。すると、ダラダラと野垂れ死にするまで生きていくしかない。
ランボオは詩なんぞというものにさっさと見切りをつけ、アフリカで商売したのだが、優柔不断なぼくは音楽について雑文を書きながらこの年まで生きてしまったのである。
では、明日、死なないでいる理由はあるのだろうか。
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当面の理由は上の写真の生き物がその理由である。右の生き物はもう寿命の半分は生きてしまっている。まあ、あと5年くらい元気でいてくれれば、素晴らしく楽しい時間を持ってきてくれたその存在に心から感謝せねばなるまい。
左の生き物は、うーん、ちょっと厄介な存在だ。なにしろ向こうの年に追い付くには17年もかかるのだ。あちらが「もういいか」と思える年齢まで付き合う自信はないので、明日を楽しく過ごせるようにするからさあ、といってお許しいただくしかないだろう。

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レイバン ウェイファーラー
2013/07/04 00:45

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
あ〜びっくりした。こんなポストがあったとは知らなかった。でも、そういうふうに読み替えていただき、光栄です。

ただ、「Postの8割は極めて興味深いもので、明日生き続けるエネルギーをもたらしてくれる」ちゅうのは明らかに誉めすぎです。(笑)せめて2割がそうであってほしいとは思いますが、本人のエネルギーが枯渇してきているので・・。

穐吉さんの日本語について、日系アメリカ人の日本語を例えに出されたのは卓見です。岩波新書を読むと、穐吉さんの生き方と性格と環境が穐吉さんを作ったことがわかります。満州〜日本〜米国と移民してきた人生。しかし、穐吉さんは日本人であることを決してやめない。ストイックな穐吉敏子とジャズ革命浪人(だったか?)平岡正明が合うわけがないか。(笑)

僕の書棚には今も『戦後日本ジャズ史』が置いてあります。合掌。
asianimprov
2009/07/23 07:35
asianさん、どうもです。
穐吉さんのストイックさは、彼女の音楽からもうかがえますよね。あの人はヴォーカルというのを長い間認めてなくて(おそらくヴォーカル&ヴォーカリストのもつエンターテインメント性が嫌いだったんでしょう)、ヴォーカリストになった自分の娘満ちるちゃんの音楽も認めず、共演するまで10年以上かかりました。初めて一緒にやってもらえた時の娘の嬉しそうな顔が忘れられません。
平岡さんは面白い人でした。でも、ぼくはジャズの他にもたくさん神がある人間です(笑)。
IKEGAMI
2009/07/23 10:21
昨日、穐吉敏子を含む3人のジャズ奏者についての研究発表を聴講したんですが、池上さんの上記コメントを「受け売り」させていただきました。(な、なんということを!(^^;))詳細は拙ブログをご覧下さい。m(_ _)m

しかし、ノーマン・グランツのJATPの活動や来日が「アメリカには人種差別はない、という宣伝」を兼ねていたとは知りませんでした。JATPに加わっていたオスカー・ピーターソンが穐吉敏子を「発見」し、米国に紹介したという流れには、実はグランツの意向が反映されていたとも・・。発表者の鳥居祐介さんは博士号を持つ摂南大学の先生です。

発表後の質疑応答は、ほとんど、鳥居さんと僕との掛け合い漫才になりました。(笑)
asianimprov
2009/07/26 11:59
asianさん、ブログ拝見しました。受け売りこそが文化の発展エネルギーです!

鳥居先生の発表、すごく興味深いですね。このコメントはasian
さんのNew Postのほうに書きます。
IKEGAMI
2009/07/28 20:43

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